日ごろの行いが良いからか、とある研究資金を獲得することができ、陸水域の水生植物、いわゆる「水草」に関する仕事を始めることになりました。 当研究所では1992年から96年にかけて、都内の約70の河川・用水路等を対象に水草の生育状況調査をしておりましたが、事業はそこで終了。実に20年ぶりの調査の再開になります。 普段私は沿岸域の干潟や河川河口などの汽水域をフィールドとした仕事に勤しんでおりますが、妻が近所の博物館で水草に関する仕事をしていることもあり、門外漢ながら前々から興味だけは持っていました。 とは言うものの、そこはやはり素人。20年前の調査報告書を開いてみても、「セキショウモ」「ホソバミズヒキモ」「アイノコイトモ」・・・。 末尾の「モ」が「藻」であろうこと以外はランダムなカタカナの羅列にしか見えません。幸い当時の調査を担当された先輩研究員がまだ在籍しており、研究応募の段階から全面的にご協力いただきながら、なんとか調査をスタートさせました。
水草の調査はなかなか楽しいものです。一般的な方法かどうかは判りませんが、水辺にアプローチできる場所では胴長を履いて間近で観察。護岸が高く川に降りられない場所では上から双眼鏡で水中や水辺の「緑」を覗き、名前を言い当てるクイズのような感じです。同行いただいた先輩研究員の指導を受けつつ、回を重ねるごとに私の目も肥えてくると、クイズの正解率もさることながら、「ホザキノフサモ=穂咲房藻」「サジオモダカ=匙面高」「ナガエミクリ=長柄実栗」などカタカナから漢字や植物の形を自然とイメージできるようになってきました。今回の調査結果を20年前と比較してみると、レッドリスト掲載種が数多く消失していること、緊急対策外来種とされている種が分布を拡大していることなど、事前に予想されたとおりの結果となっていました。 水草が生育するきれいな水辺のある公園では、小さな赤ちゃんを連れた家族が、目の前のせせらぎを見ながらお弁当を食べています。小魚でもいるのでしょうか。真っ黒に日焼けした子供たちが、網を持ってバシャバシャと小川の中を歩いています。何気ない日常の風景ですが、何となく心を癒され、調査を終えました。
調査結果の整理も一段落した頃、出張明けに研究所に出勤すると、私の机の上に1枚のDVDが置いてありました。手に取ってみると手書きの文字で「水草のある風景」。早速中を確認すると、20年ほど前のテレビ番組の録画のようで、今回の水草調査にご協力いただいた先輩研究員の若かりし頃の姿がありました。都内の水域を水草の解説をしながら巡る番組のようです。途中、水辺を散歩する家族連れや、網で魚取りをする子供たちが映し出され、聴き手役のリポーターが「こういう風景、あまり見かけなくなりましたねぇ。」と、しみじみと伝えていました。 それから20年経った今、当時と同じような風景を都内でもまだ見ることができます。ゆっくりと時間が流れる「水草のある風景」が、20年先、さらにその先まで残り続けることを願っています。
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