2020年12月31日木曜日

第46回 「“浄化槽”との出会いから20年・・・ 」 東洋大学 理工学部 都市環境デザイン学科 山崎 宏史

 持ち回りで書いているこのリレーエッセイ、何を書こうかと、過去のリレーエッセイをあらためて読み返すと、他の幹事は、小さい頃に水辺で遊んだ体験や日常生活の中での?に気づく能力を持っているのだなぁと、つくづく感心してしまった。私はと言えば、小さい頃に水辺で遊んだ記憶もあまりなく、また、昨今指摘されている大学を卒業するまでに、自分のやりたいこと、自分に適したこと、を見つけられなかった学生であったと思う。就職に関しても、業界や会社の下調べも十分せずに、いくつかの会社の入社試験を受けてしまった。時代が変わり、インターネットが普及しているとはいえ、よほど、今の大学生の方が、入社試験を受ける会社のことをよく調べていると思っている。

 さて、そんなこんなで選んだ会社が浄化槽メーカーであった。しかし、そもそも“浄化槽”とは何なのか?具体的なイメージが出来始めたのは会社説明会の頃で、実家に浄化槽(単独処理浄化槽)が埋まっていることさえ、当時は知らなかった。しかし、この“浄化槽”との出会いが、私の人生を変えるものとなった。実際、“浄化槽”の開発に携わってみると、実に面白い。思った通りにならないのである。その失敗を謙虚に受け止め(上司に怒られつつ)、なぜ、思った通りにならなかったのか?を考え、さらに、上司や同僚からのアドバイスも聞き、次の開発に繋げる。この様な作業を繰り返しながら、なんとか製品化できた時の喜びは格別である。しかし、その喜びもつかの間、今度はその製品が、毎日、数多く工場から出荷されていくのを見ていると、それらの製品が、実現場に設置された後、ちゃんと機能しているか不安になってくる。そんな思いも抱えながら、また、次の“浄化槽”開発をスタートさせるのである。

 それから約20年、立場も浄化槽メーカー職員から、第三者性能評価試験機関を経て、現在、大学の教員へと変わった。業務内容は、その都度変わったが、これまでと同様、現在も“浄化槽”と付き合っている。

私は、現場の最前線で働いている人達の話を聞くのが好きだ。下水道の終末処理場を管理している方に話しを聞くと、「処理水質が悪化してきた時に、どういう運転をすると改善できるのかを考えることに楽しみを感じる」と言う。浄化槽の法定検査を実施している方に話しを聞くと、「ライフワークは維持管理技術の開発です」と答えが返ってくる。この様な方々と話をすることは、私の新たなモチベーションとなっている。浄化槽の維持管理を何十年としている“おっちゃん(親しみを込めて・・)”に話しを聞くと、「浄化槽のマンホールを開けて、匂いを嗅ぎ、水を見て、汚泥の状態を見ると、その家の人の生活習慣がわかる」という。真偽の程は定かではないが、経験に勝るものはなく、おそらく正しいのであろう。それらを数値化し、解析し、根拠を持って示すことは、我々、研究者の仕事である。この様な話を聞くと“浄化槽”は、まだまだ、奥が深い!と思わせられる。

 大学生が、進路を決める際に、自分の得意分野を理解し、それらを元に選択することは非常に重要なことである。しかし、興味に勝るものはないと思っている。途中からでも、水環境に興味を持ってくれたら、その門を叩いてみてはどうだろうか?実に面白い分野だと心から思っている。

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